研究概要 |
血管新生阻害剤を含めた分子標的治療薬の臨床応用が進む中,その詳細な作用機序の解明は未だ十分とは言えず,特に血管新生阻害療法の肝転移抑制効果について転移先臓器の形質変化に着目した研究はなされていない.本研究は,血管新生阻害剤TSU68による大腸癌肝転移抑制効果,さらに転移形成前の肝臓内微小環境変化に関わるメカニズム解明を目的とする.さらに,原発巣における遺伝子発現変動の解析と,TSU68による腫瘍内微小環境変化を評価することにより,血管新生阻害剤と従来の抗癌剤との併用に関する新たな科学的根拠を示すことを目的とする. 本年度における研究内容は,TSU68投与後の腫瘍内微小環境変化の解析を試みた.ヒト大腸癌肝転移モデルに腫瘍を同所移植7日後,治療群(TSU68 ; 400mg/kg/day, n=30)と対照群(Vehicle, n=30)にそれぞれ経口投与開始.投与開始7日後における原発巣の遺伝子発現変動のマイクロアレイ解析から,lysy1 oxidase(LOX)の発現が薬剤投与群において有意に低下していることが確認された.同所移植腫瘍における腫瘍内間質圧(IFP)の測定に関してはまだ技術的課題が残されているが,皮下腫瘍内のIFPは投与7日後に有意に低下することが確認されたため,投与開始7日目がNormalization Windowであると考えた.原発巣におけるLOXの発現低下は,肝臓内LOX沈着を抑制し微小環境に影響していると考えられる(Cancer Cell 2009).またLOXは低酸素によって誘導されることが分かっており,TSU68による低酸素状態の改善が示唆された.マイクロアレイ解析ではLOXの他にも多くの遺伝子発現変動が確認されているが,現時点では併用療法へ結びつく因子は決定されていない.今後,この腫瘍内および肝臓内環境変化をさらに詳細に解析することが至適併用療法決定に際し重要であると考える.
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