食道癌に対して食道亜全摘手術を受けた患者が、術後長期にわたり摂食不良に悩まされるケースは非常に多く、臨床現場で要請の高い研究課題となっている。本研究の目的は、そのメカニズムを解明し、治療法を開発することであった。近年、多くの食思関連ホルモンが報告されており、周術期において食思関連ホルモンがどのように働いているかを検討することは重要である。今回我々は、患者血清を採取してそれら食思関連ホルモンの血液濃度を調べた。胃から分泌されて食欲を増進させる作用のあるGhrelinの血中濃度が、食道亜全摘手術後患者では食後に上昇するという逆転現象が認められた。今回このパラドックスが確認されたことは、大きな進捗であるが、このパドックスのメカニズム解明には至らなかった。食思関連ホルモンに関して、One pointのデータとしては、術後のGhrelin血中濃度の低下など予想どおりの結果が報告されているが、我々は動態として本来とは逆の結果を得ている。実際、胃噴門部が切除されており、Ghrelinのソースとしてはその他の部位を想定しなければならない。以上の結果は、研究に新しい独創的な視点を導入することになる。その他の食思関連ホルモンを網羅的に解析することで説明がつかないこともpreliminaryな調査からも予測され、本研究の結果が当該分野に付与する意義は大きいと期待される。また、ミニブタを用いた動物モデルへの展開は他になく、治療への展開も期待できる。今回、ミニブタの供給が停止されたため、本実験に至らなかったが、今後の実験に予定していきたい。
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