本研究の目的は、過小グラフト成人生体肝移植に対して現在我々が行っているInflowの軽減とOutflowの増加を目的とした新しい手術法における術後グラフト肝機能を評価し、より安全な手術法、周術期管理法を確立し、新しいドナー適応基準を構築することである。成人生体肝移植における肝静脈再建法はこれまで静脈口径の開大の重要性のみが強調されていたが、我々は移植後の肝再生過程における肝静脈の3次元的変化に着目し、変化に対応した新しい肝静脈再建法を考案した。本年は2006年より行っているこの術式の工夫と術後成績の向上を国内外の学会にて報告した。これらのデータは現在論文投稿中である。また、肝静脈再建の工夫により術後肝機能の向上がみられていることをふまえ、肝グラフトの適応基準をグラフト体重比0.8以上から0.7以上に拡大している。この適応拡大により、全体の11%にしかすぎなかった左葉グラフト肝移植が2006年以降、65%に増加した。左葉グラフト肝移植は、右葉グラフト肝移植に比べ有意にグラフト体重比が小さいにもかかわらず、上記の適応基準内では、術後肝機能変化、術後合併症、入院日数は両者に差を認めないことが本年の解析により証明された。このことは、これまでの基準では十分なグラフト容量をもつドナー不在のため、肝移植適応外とみなされていた患者に安全な肝移植をうけるチャンスを与えるだけでなく、右葉グラフトより少ない合併症率であることが報告されている左葉グラフトの使用を増加させ、ドナーの安全性を高める可能性を示しており、意義ある研究成果であると考えられた。この結果は、フランス韓国で行われた国際学会にて報告された。これらの成果は今後症例を増やし、術後肝機能変化の詳細な検討を加え、論文投稿予定である。
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