研究概要 |
細胞周期制御因子であるFBXW7に着目し、胃癌、大腸癌におけるその発現を確認した。胃癌において、100例の臨床検体を用いて、FBXW7 mRNAは癌部と比較し非癌部で高発現しており、低発現群は、高発現群と比較し有意に予後不良であることを示した。さらにp53の変異がある症例ではFBXW7 mRNAの発現が抑制されており、有意に予後が不良であることを示した。また胃癌細胞株を、siRNAを用いてFBXW7を抑制することで、c-Myc, Cyclin E蛋白が増加し、増殖能が高まることを示した。 大腸癌において、胃癌と同様に、93例の臨床検体を用いて、FBXW7 mRNAは癌部と比較し非癌部で高発現しており、低発現群は、高発現群と比較し有意に予後不良であることを示した。また大腸癌細胞株を、siRNAを用いてFBXW7を抑制することでc-Myc, Cyclin E蛋白が増加し、増殖能が高まることを示した。さらに免疫染色を行うことによつて、FBXW7の低発現症例では、c-MycとCyclin Eが高発現しており、予後不良であることを示した。大腸癌におけるFBXW7の発現が低下する原因を追究するため、別の99症例の臨床検体をlaser micro dissectionにより癌細胞のみを標的として、cDNA microarrayとCGH arrayを行った。その結果、FBXW7領域のゲノムの欠失が全体の約4割に確認され、その頻度は進行度とともに上昇することを示した。 以上のように、当該年度は胃癌、大腸癌におけるFBXW7の発現が臨床病理学的に重要なことを示した。また、癌細胞株を用いて、FBXW7の発現低下に起因する生物学的悪性度の関わりを明らかにした。さらにその発現低下の機序を胃癌、大腸癌において、それぞれの臨床検体を用いて明らかにした。これらの結果より、細胞周期制御因子であるFBXW7の発現を調節することで、癌幹細胞に特徴的とされるGO期へ誘導することが示唆され、そのような癌幹細胞が治療抵抗睦の主体を担っていることが明らかにできると思われ、将来的には癌幹細胞を駆逐する方法の開発が癌の根治的治療に結びつく可能性を示した点で極めて意義深いと考えている。
|