研究概要 |
膵癌は予後不利様な癌腫で、その唯一の根治可能な治療は外科的切除のみである。しかしながら外科的切除を受けた膵癌患者の5年生存率は、20%にも及ばないのが現状である。また外科的切除を行った膵癌患者の予後を規定する因子は、リンパ節転移のみであることは多くの報告より分かっている。そこでわれわれは、切除膵癌標本を用いて、膵癌リンパ節転移予測遺伝子の同定を試みた。対象サンプルは根治切除した膵癌組織50例で、リンパ節転移陽性群を25例、陰性群を25例とした。まず膵癌析出標本の一部を凍結包埋し、その組織を9μmに薄切した。続いてヘマトキシレン染色をした後、膵癌腫瘍部を選択的にマイクロダイセクションし、膵癌細胞のみを回収した。回収した膵癌細胞から、RNeasy Micro Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出した。そのRNAをAgilent 2100 Bioanalyzer (Agilent社)にてQualityをチェックし、RNAの質の指標であるRINが5.0以上であることを確認した。続いて膵癌組織RNA100ngを用いて、RNAマクロアレイアッセイ(Affymetrix社)を行った。逆転写酵素とpoly-Tプライマーを用いてcDNA合成を行い、T7RNAポリメラーゼを用い、2サイクル増幅させ、in vitro transcriptionを行った後、biotinにてラベル化した。15μg分のcRNAを35~200ntになるように断片化し、GeneChip Human U133 plus 2.0 array (Affymetrix社)に注入し、17時間hybridizationを行った。Fluidics Station (Affymetrix社)にてwash and stainを行い、Fluorometric scannerにてスキャンし、シグナル強度をGeneChip Operating Software (GCOS)で解析した。そのマイクロアレイデーターをDNA Chip softwareを用いて、Normalizationし、その絶対値をリンパ節転移陽性群と陰性群で比較解析した。その結果リンパ節転移陽性群で高発現した遺伝子29個と低発現した遺伝子17個を同定した。これらの遺伝子群は膵癌のリンパ節転移に強く相関する遺伝子群であり、これらの遺伝子群を立証するべく、免疫染色解析を行った。 その結果4遺伝子(AP2α, MUC17, LI-cadherin, XK)が、リンパ節転移陽性群と陰性群で差を認めた。さらに網羅的遺伝子解析に用いなかった40例を用いても,同様の結果を得られ、これらの遺伝子群は膵癌のリンパ節転移に関与していることがわかった。今後これらの遺伝子群を用いて、さらなる研究を行い、膵癌の新規治療のtargetになりうることを証明する。
|