ケラチノサイト増殖因子(KGF)の膵臓癌における機能を検討するため、培養膵臓癌細胞の一つであるMIAPaCa-2細胞を用いて実験を行った。リコンビナントKGFを投与した所、濃度依存的に細胞増殖が誘導されることを明らかにした。次に、細胞内シグナル伝達経路を解析したところ、ERKとp38のリン酸化がリコンビナントKGF投与により濃度依存的に亢進しており、これらの経路を活性化することによってKGFは膵臓癌細胞の増殖や、以前に報告されているVEGF-Aの産生を誘導することが示唆された。 次に、膵臓癌におけるルミカンの役割を検討するため、培養膵臓癌細胞の一つであるPanc-1細胞を用いて実験を行った。Panc-1細胞にルミカンを遺伝子導入した安定過剰発現株を作成した所、分子量70kDaの特異的なルミカンのみを過剰に分泌しており、その結果ルミカン過剰発現細胞は細胞増殖能がin vitroとin vivo共に亢進していることが明らかになった。また、siRNAを用いてPanc-1細胞のルミカンの発現を抑制することで、細胞増殖が抑制されることも分かった。これらのことから、特異的な分泌型ルミカンが過剰に発現することで、膵臓癌細胞の増殖が誘導されることが推測された。そこでこの分泌型ルミカンにより制御されるシグナル伝達経路を検討したところ、細胞増殖を制御しているERKのリン酸化がルミカンの発現により制御されることが明らかとなった。 プロテオグリカンはKGFのような線維芽細胞増殖因子と受容体の結合を安定化させることが報告されている。今回、ルミカンの過剰発現によりERKが活性化され細胞増殖が誘導されたことから、その機構としてKGFとKGFRとの結合を安定化させた可能性が考えられた。このことから、ルミカンの発現抑制による増殖因子受容体の活性化抑制という新しい機構での膵臓癌治療薬開発の可能性が考えられた。
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