研究概要 |
本研究は, 肺癌などで大量肺切除を行う症例に対し, 術前の常圧低酸素トレーニングの有用性を検証することを目的としている。特に大量肺切除後に生じる, 残存肺の代償性成長とそれに伴う気腫性変化および, 肺血管床減少に伴う肺高血圧・右心不全が予後規定因子の一つであると考えられている. よってラットの大量肺切除モデルを作製して術後病態の検討が必要であると考えた. 具体的にはSprague-Dawleyラットを使用して, 全身麻酔下に人工呼吸器下に右開胸のみの群(S群 : n=6), 右3肺葉切除群(L群 : n=10)を作製した. 肺切除後14日目で残存肺成長はplateauになるとの報告があることから, 21日目に犠死させ検討することとした. 検討項目 : (1)生存率, (2)代償性肺成長の指標として残存肺容積, (3)残存肺の気腫性変化の指標として平均肺胞間距離, (4)肺高血圧・右室肥大の指標として右室/左室+中隔の重量比, (5)肺内肺動脈(25-100μm)の再生の指標として密度(200倍で20視野平均). 結果 : (1)生存率はS群、L群とも100%で有意差を認めなかった. (2)残存肺(左肺葉)の容積は、S群2.8±0.3ml、L群5.6ml±1.0mlと肺切除により有意に(p<0.0001)増加した. (3)平均肺胞問距離はS群113±22μm、L群156±31μmと有意に(p<0.0001)増加した. (4)右室/左室+中隔の重量比はS群0.27±0.02、L群0.47±0.05と有意に(p<0.005)増加した. (5)肺内肺動脈の密度はS群3.4±0.4, L群2,0±0.7と有意に(p<0.05)低下した. 以上の検討からラットの大量肺切除後の呼吸・循環動態を評価することが可能であった. 次回は以上のデータをもとに術前トレーニングの評価を行い, その有効性を明らかにする予定である.
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