研究概要 |
本研究は大量肺切除が必要な症例に対し,術前から常圧低酸素トレーニングを行い,術後の呼吸不全および右心不全を予防することを目的としている.前回はラットを用いて大量肺切除(L群)を行い,開胸のみの群(S群)と比較した.(1) 生存率,(2) 代償性肺成長の指標として残存肺容積,(3) 残存肺の気腫性変化の指標として平均肺胞間距離,(4) 肺高血圧や右室肥大の指標として右室/左室+中隔の重量比,(5) 肺内肺動脈の再生の指標として密度について明らかにした.さらに術直後から連日の薬物治療を追加することにより,その効果の有効性について検討を加えた. 具体的には前回と同様に右肺3葉切除ラットを使用した.術翌日よりG-CSFを10μg/kg/dayの連日皮下投与群(LG10群),100μg/kg/dayの投与群(LG100群)を作製し,21日後に検討を行った.今回はさらに(6)右室心筋のDNAダメージの指標としてPCNA labeling indexを検討項目に追加した。 結果:(1) 生存率は全群とも100%で有意差を認めなかった.(2) 残存肺容積はS群と比して3群(L群,LG10群,Lg100群)とも増加したが3群間に有意差を認めなかった.(3) 平均肺胞間距離はS群と比して3群とも有意に増加したが3群間に有意差を認めなかった.(4) 右室/左室+中隔の重量比はS群と比して3群とも有意に増加したが,L群に比してLG10群,LG100群とも有意に抑制した.(5) 肺内肺動脈の中膜肥厚はL群で有意に増加して,L群に比してLG10群,LG100群とも抑制した.(6) PCNA labeling indexはL群で有意に増加したがLG10群,LG100群とも有意に抑制した. 以上の検討から術後にG-CSFを投与すると,大量肺切除後に引き起こされる肺高血圧・右室肥大を抑制することが示され,常圧低酸素トレーニングの効果をより高めると判断された.
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