本研究は、近年増加傾向にあり日本人死因の1.2%となっている動脈瘤に対し、根治手術となる人工血管置換術が、余りに侵襲が大きいために、手術を受けることが困難となるような患者に対し、病理・病態的観点からアプローチし、新たな治療法を開発する。 [担体の開発]MMP-2の発現を抑制することで、動脈瘤の進展を防ぐ薬剤としてDoxycyclineがあるが、歯牙色素沈着や菌交代による感染症などの副作用により、全身投与による治療は非現実的となりつつある。我々は生体吸収性材料に薬剤を混和し、徐放化するドラッグデリバリーシステムを開発した。薬剤にdoxycyclineを用い、生体吸収性材料として高分子ポリマーのポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体を用いた。これらを特殊溶媒中で高電圧を印加するelactrospinning法を用いてナノファイバー化した担体を作製した。この担体は、薬剤がin vitroでは、最初の1~2日で30%程度、その後は徐々に1ヶ月で50%程度溶出し、in vivoでは最初の1~2日で70%程度、その後は徐々に1ヶ月ですべてが溶出した。In vivoで急激に溶出する原因は、ポリマーの加水分解による溶解に加えて、貧食細胞の食作用が影響したのではないかと考えられた。 [doxycycline溶出担体の効果]doxycycline溶出担体と大動脈組織とを共培養した場合、大動脈内エラスチン量は有意に維持され、MMP量も有意に減じていた。上記結果から、動脈瘤に対する可能性が示唆された。現在、アポE欠損マウスによる動脈瘤モデルを作製したので、in vivoにおけるこの担体の効果を検討する計画をしている。 *スタチン溶出担体に関して : 同様の手法でスタチン溶出担体を作製したが、細胞との共培養で、細胞がアポトーシスを起こし、実験系が成り立たなかった。現在スタチン濃度を最適化している。
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