腺癌症例においてDNA損傷応答タンパク発現認められたため、肺腺癌に絞って検討を進めた。原発性肺腺癌の早期癌と考えられている気管支肺胞上皮癌でのDNA損傷応答タンパクの発現はほとんど見られず、進行癌において発現されていることが多いことが分かった。これは、腫瘍細胞のDNAが周囲環境因子により損傷を受ける頻度は進行癌においてより多く、その結果DNAのmutationが蓄積され新たな性質の獲得を促進していると考えられる。しかしながら、各種臨床学的、病理学的パラメーターとの有意な関連は指摘されなかった。 また、ATM・Chk2は陽性となるもののγH2AXの発現をほとんど認めなかった。その意義については現在検討中であるが、1) γH2AXはDNAのdouble-strand break時に発現するため、酸化ストレスやpoint mutationの修復過程でおこるsingle-strand breakでは発現が非常に少ない、2) 肺癌ではγH2AXが発現されにくい、3) ATM、Chk2がDNA損傷以外の理由で活性化されている、などが考えられる。 進行癌組織内におけるDNA損傷応答蛋白の活性化が早期癌と比較し強く発現する傾向にあることが証明されたことから、発癌や癌の進行、悪性度に関連があると予想される。
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