【背景】動脈硬化性疾患に対する外科治療として行われる自家静脈グラフトを用いた血行再建術の臨床成績は、新生内膜形成(静脈グラフト不全)のために不良である。その一因として血管平滑筋細胞が発現する血小板由来増殖因子(PDGF)が主要な役割を果たしていることが知られている。【目的】PLGA製ナノ粒子(NP)を用いたナノドラッグデリバリーシステム(ナノDDS)によるPDGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬(メシル酸イマチニブ、STI571)の血管平滑筋細胞への送達により静脈グラフト不全の治療となりうるかを明らかにする。【方法と結果】In vitroにて蛍光物質封入NPを平滑筋細胞に投与すると、60分以内に殆どの細胞内に取り込まれた。STI571封入NPの投与によつて、PDGFによる平滑筋細胞のPDGF受容体チロシンリン酸化が抑制され、遊走、増殖が優位に抑制された。Ex vivoにて摘出したウサギ頚静脈グラフト片及びヒト静脈グラフト片に蛍光物質封入NPを投与すると静脈壁中膜平滑筋細胞に取り込まれた。蛍光物質封入NPを導入したウサギ静脈片を頚動脈にバイパスしたところ、術後7日目に新生内膜、中膜の50-60%に蛍光物質陽性の細胞を認めた。バイパス術後28日後に著明な新生内膜形成を認めたが、STI571封入NPを導入した静脈グラフトでは有意に抑制された(蛍光物質封入NP群、STI571のみ投与群では治療効果は認めなかった)。STI571封入NP導入群で増殖細胞が減少し、PDGF受容体発現の減少とともにPDGF受容体チロシンリン酸化の減少、ERK1/2リン酸化の減少を認めたが、血管内皮再生には影響しなかつた。【結論】ナノDDSは優れた細胞内送達を示し、静脈グラフトへの細胞内送達にも有用であった。ナノDDSによるSTI571導入は静脈グラフト不全の新しい治療法として期待される。
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