研究概要 |
【はじめに】昨年度に引き続き,癌性胸水の発症機序における癌のリンパ管小孔への転移の意義,癌の胸膜播種/胸膜侵襲,リンパ節・リンパ行性転移との関係,癌の足場非依存性増殖機構を明らかにすることを目的とした.【方法】研究対象は担がん患者(原発巣を問わない)の剖検例のうち,中皮腫と肉腫,リンパ腫,白血病を除き,胸水の細胞学的検査が可能であった51例をとした.剖検時,胸水を採取し,癌細胞の有無を判定した.また,胸腹部骨盤内臓器や横隔膜,肺靱帯,臓側と壁側の胸膜,および胸管やリンパ節等を網羅的に観察し,癌の組織型や深達度,諸臓器への転移の状態を調べ,病理組織学的検討を加えた.【結果】(1) 癌性胸水の有無にかかわらず,肺靭帯に多数のリンパ管小孔が観察された.また,癌性胸水陽性例では陰性例と比べて小孔は大きく,漿膜下リンパ管密度が高い傾向がみられた.(2) 単変量解析(χ2乗検定)では,癌性胸水陽性例では左右いずれも陰性例に比べて,癌の胸膜播種/胸膜侵襲肺門リンパ節転移,肺靱帯リンパ管小孔転移,静脈角リンパ節転移の頻度が有意に高かった.(3) 多変量解析(logistic回帰)では,これらの因子のうち肺靭帯リンパ管小孔転移のみが癌性胸水を予測する独立した因子であった(p<0.01).(4) 未治療の癌性胸水陽性例の病理組織学的検討では,癌細胞のKi-67 index, Apoptosis index, VEGF-A発現率に関してリンパ管小孔転移巣と原発巣との間に有意差はみられず,VEGF-C発現率については原発巣よりもリンパ管小孔転移巣のほうが高い傾向が,E-Cadherin発現率については原発巣よりもリンパ管小孔転移巣の方が低い傾向がみられた.【考察】癌の肺靱帯リンパ管小孔転移は癌性胸水の発症に寄与しており,リンパ管小孔は癌細胞が足場を失って胸腔へ出ていく場を提供している可能性が強く示唆された.
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