神経の発生・分化に関わるNotch、およびadenylate cyclaseを活性化する視床下部ペプチドの一つで「神経突起伸長因子」としての生理作用が知られるPACAP(Pituitary Adenylate Cyclase Activating Polypeptide)の遺伝子を骨髄間質幹細胞(以下BMSC)に導入した後、低酸素・非接着培養条件下で浮遊培養しspheroidを形成させる。このspheroid形成細胞は種々のサイトカインシグナルの刺激によって神経系の形質を有する細胞へと分化誘導可能であり、このBMSC由来の未分化な細胞を、神経前駆細胞BMSC-derived neuroprogenitor cell : 以下"BDNPC"と表記する。 研究目的 : 虚血損傷を受けた脳にBDNPCを移植する治療実験(経静脈移植・脳内直接移植)を行い、その治療効果を検討する。 「研究内容」GFP transgenic SD-ratのBMSCからBDNPCを誘導した(以下GFP-BDNPC)。まず予備実験として、young adult SD ratを用いて2種類の脳虚血モデル(中大脳動脈閉塞モデル、および一過性4血管閉塞モデル)を作成し、controlとしてsham-operation動物をおいた。GFP-BDNPCのspheroidsを回収し、上記のモデル動物の脳内(大脳皮質下および線条体周辺)へstereotacticに直接移植を行った。「実験結果とその意義」移植後14日目の時点で動物をsacrificeし脳内に生着しているGFP陽性細胞の様子を組織学的に検討したところ、3群ともに移植部位にGFP陽性の細胞群が生着しているのが観察され、MCAOモデルでは移植部位から周辺組織へとmigrationしている細胞が認められた。4血管閉塞モデルおよびコントロール動物においてはGFP陽性細胞は移植部を中心に留まっておりmigrationしている細胞は非常に少なかった。移植3ヶ月後にsacrificeした組織の検討では、MCAOモデルにおいては虚血巣周囲だけでなく病変側の大脳および基底核の広範囲にGFP陽性細胞の生着が確認された。一方、4血管閉塞モデルとコントロール動物ではGFP陽性細胞は僅かであり、生着した移植細胞の割合は明らかに少なかった。以上の結果より移植したBDNPCsのうちhost脳内で長期に渡り生存し続けた細胞の生着・分化の様子を観察するにはMCAOモデルがより適している可能性が示唆されたため、同モデルを用いて治療効果の検討を含めた本実験を現在遂行中である。
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