悪性脳腫瘍の中でも膠芽腫は生命予後が極めて不良であり、標準治療である手術および放射線照射をおこなっても治癒に至ることは稀である。当施設では膠芽腫に対するホウ素中性子捕捉療法を臨床応用しており、標準治療に遜色ない成績を残してきた。この治療法は腫瘍細胞内と正常細胞内のホウ素量比が大きいほど有効であり、生物学的選択性の根拠となっている。これまでにホウ素化合物の投与経路や担送システムに関する研究が数多く報告されてきたが、腫瘍選択的なホウ素蓄積に関する良好な結果が得られており、動物実験では治療効果も向上している。しかし中性子照射に際し、定量的な線量計画が十分でないのも事実である。我々は投与したホウ素化合物の分布を画像化することがホウ素量定量化に繋がるのではないかと考え本研究を立案した。研究目的は腫瘍内ホウ素量を高濃度に維持しながら腫瘍細胞内と正常細胞内ホウ素量比を大きくすることである。さらに生体内ホウ素分布の画像化およびホウ素量を検証することである。本研究ではホウ素担送システムとしてトランスフェリン結合リポソームを用い、内部にホウ素化合物およびヨード造影剤を同時包埋した。ラット膠芽腫細胞へのホウ素取り込み実験では有意差をもってトランスフェリン結合リポソーム群でより高濃度のホウ素が細胞内に取り込まれることが分かった。またラット脳腫瘍モデルにおけるホウ素分布の画像化では、トランスフェリン結合リポソーム群において腫瘍部の造影効果が投与後72時間まで維持されたが、非結合群では24時間後には造影効果は消失していた。腫瘍内ホウ素量はトランスフェリン結合リポソーム群では非結合群の4倍の取り込みを示した。投与経路は腫瘍内への直接注入であり、正常脳や血液内のホウ素量は極めて低く、腫瘍細胞内ホウ素量と正常細胞内ホウ素量比は極めて高い値を示し、中性子照射による治療効果が期待できる結果となった。
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