本研究では、脊索性髄核細胞を有するラットおよびウサギ、軟骨性髄核細胞を有するウシの髄核細胞を使用し、これら動物種の髄核細胞の形態学的特徴、細胞代謝の指標として乳酸産生量、^<35>S-sulphateを用いたプロテオグリカン(PG)合成能、及びdimethylmethylene blue assayを用いたグリコサミノグリカン(GAG)産生量の違いについてin vitroに検討した。採取した髄核組織は、細胞密度が4×10^6個/mlとなるようにalginate beadsを作成し21%酸素下に5日間の培養を行った。 結果、形態学的にラットとウサギでは、ウシに比し細胞密度が高く、脊索の特徴である担空胞細胞(physaliphorous cells)が集合し互いに接着しているのに比し、ウシでは脊索細胞は全く見られず細胞周囲には小窩様構造(lacuna)を有する軟骨細胞が単独で基質内に散在していた。三次元培養下で観察した髄核細胞の乳酸産生量、PG合成能及びGAG産生量は、ラットとウサギではウシに比べ明らかな高値を示し、脊索細胞の細胞代謝活性の高さを示す結果を認めた。本研究結果から正常のヒト椎間板で見られる7% GAG (70mg/ml)濃度を有する髄核組織を作成するためには、脊索細胞を有するラットでは約1年、ウサギでは約2年を要し、ヒトと同様な形態を有するウシの軟骨様細胞では少なくとも約5年と非常に長い時間を要することが推測され、臨床応用が可能な椎間板組織の作成としては非現実的であることが分かった。またPG産生能の高い細胞の髄核内への移植が可能になったとしても、移植された細胞が周囲より十分な栄養供給を受け変性椎間板内で力学的強度を維持するのに十分なPG産生を生涯維持していけるか否かは不明である。分子生物学的手法や細胞培養技術を用いた椎間板再生治療では、まず病的な椎間板変性下にある髄核細胞周囲の生理学的環境を改善させることが重要課題であり、ヒトの椎間板再生治療には脊索細胞ではなく軟骨様髄核細胞を用いることが現時点では望ましいと考えられた。
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