研究課題
脊髄損傷に対するプロテオグリカンの作用は明らかでなく、本研究においてラット脊髄損傷モデルを作成し検討した。プロテオグリカンの1種であるコンドロイチン硫酸(CS)に関しては英国のJ.W.Fawcettらがラット脊髄損傷に対し、CS分解酵素であるコンドロイチナーゼABC(C-ABC)の下肢機能の回復を報告し、臨床応用も期待されている。そこでC-ABCをpositive controlにおき、ケラタン硫酸(KS)分解酵素であるケラタナーゼ(K-II)をラット脊髄損傷直後にくも膜下に2週間持続投与した。BBBスコアを用いた下肢運動機能評価では、control群では回復が乏しかったのに対し、C-ABC、K-IIともに良好な下肢運動機能回復を得た。さらにGrid testやfoot printテストも行い運動機能を評価したが、同様の結果であった。客観的指標として、電気刺激を用いた検討でも、C-ABC、K-II投与群ではその振幅、Latency、Durationともに、良好に回復していた。臨床応用を考えた場合、疼痛の有無も重要となるが、下肢痛覚、温痛覚試験では、いずれの投与群もallodyniaを生じなかった。さらに組織学的検討として、脊髄損傷周囲の瘢痕を定量したところ、治療群では有意に瘢痕形成が少なかった。術後の脊髄炎症反応(CD-11b染色)も有意に治療群で少ない結果であった。軸索伸長の程度を定量するため損傷後8週間でBDA色素を用いトレーサー実験を行った。損傷後10週間の定量では、対照群に対し有意に多い軸索が確認できた。Gap43染色、5HT染色、NF染色も行ったが、いずれも治療群で良好な下肢運動機能を支持する結果を得た。さらにGlcNAc6ST-1欠損マウス(KSのノックアウトマウス)の脊髄損傷圧挫モデルでも神経軸索再生が有意に促進し、下肢運動機能回復も良好であった。以上の検討により、これまで注目されてきたCS同様、KSも脊髄損傷後に重要な役割を果たしていることが判明した。そして驚くべきことに、これらの効果は臨床応用が検討されているC-ABCの効果を上回っていた。今後、臨床応用を見据え、さらなる研究をすすめる必要がある。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
J Neurosci
巻: 28 ページ: 5937-5947