内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は脳内に高濃度で存在し、カンナビノイド受容体の天然リガンドとみなされている。しかし、その2-AGの抗侵害作用における役割は現在分かっていない。2-AGは体内でモノグリセリドリパーゼ(MGL)という分解酵素によって代謝される。本研究では野生型マウスとMGL欠損マウスにおいて各種疼痛刺激に対する反応を評価した。 1. 急性侵害受容(ホットプレート試験):55°の温度に保たれたプレート上に覚醒野生型とMGL欠損マウスを置き、疼痛関連行動: 1)足をなめるlicking 3)ジャンプするjumpingまでの潜時を測定した。熱刺激に対する逃避反応の時間の有意な違いはなかった。 2. 急性持続性疼痛のモデル(ホルマリンテスト):5%のホルマリン溶液0.01mlをマウスの後肢足蹠に皮下注入し、自発痛によって生じるlickingとbitingの行動を、化学刺激による反応を反映する第1相(0-10min)と局所の炎症反応による侵害受容性興奮と脊髄後角に誘発される過敏化の相乗効果を反映する第2相(10-60min)に分け、評価した。両相において野生型マウスとMGL欠損マウスの間にlickingとbiting行動の持続時間の有意な差はなかった。 3. 炎症性疼痛モデル(完全フロインドアジュバント(CFA)モデル):CEAをマウスの後肢足蹠に皮下注入し炎症を発症させた。CFAを注入1、4、7日後熱刺激に対する逃避反応の時間を評価した。野生型マウスには熱刺激の閾値は有意に下がった。MGL欠損マウスも強い熱アロディニアを示した。両グルプの間に有意さは認められなかった。MGL欠損によってベースラインの熱刺激閾値及び急・慢性炎症性疼痛関連行動は変わらなかったことから内因性カンナビノイド2-AGがそれらの疼痛メカニズムにおいて関与しないことが示唆された。
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