研究概要 |
【目的】近年安全な麻酔薬の開発により,高齢者が全身麻酔使用下に手術を受けることが可能となったが,高齢者の増加に伴い増加している,認知機能障害やアルツハイマー病のような神経変性疾患における麻酔薬作用の変化については未だ明らかでない.我々は,認知機能障害・アルツハイマーモデル動物として老化促進モデルマウス〈SAM-P8〉を使用し,認知機能障害に及ぼす全身麻酔薬作用の影響について検討した. 【方法】認知症モデルマウス(SAM-P8)および認知障害を示さないコントロールマウス(SAM-R1)を用い海馬シナプス伝達に及ぼす全身麻酔薬作用を比較検討した.海馬シナプス伝達:S醐マウスを麻酔後断頭し海馬スライス標本を作成した.2本の刺激電極をシャーファー側枝(Sch)と海馬白板(Alv)に,細胞外記録電極をCA1錐体細胞体領域に置き,集合電位(PS)を記録した.Pre-pulseとしてAlvにTrain刺激(10-300Hz)を与え海馬抑制性介在ニューロンを活性後SchへのTest-pulseによりPSを誘発した.2群問の比較にはStudent'st検定を用いた. 【結果】海馬抑制性介在ニューロン活性化状態において,セボフルラン(3.Ovo1%)およびチオペンタール(10^<-5>mol/L)は集合電位の振幅を抑制したが,その作用はSAM-R1よりもSAM-P8において増強を示した(p<0.05,n5).Pre-pulse trainを増加させるとシナプス前終末のGABAが枯渇するため集合電位の抑制が減弱する.麻酔薬投与により集合電位の抑制作用は延長することから、全身麻酔薬がGABA放出時間を延長することが判明した.SAM-P8ではこの延長効果の顕著な増加が認められた. 【結論】pre-pulse train法による検討から,SAM-P8においてセボフルランおよびチオペンタールはシナプス前終末からのGABA放出を増強することが示された.今回の結果より認知障害により全身麻酔薬作用が増強される可能性が示唆された.これは中枢におけるシナプス前終末からのGABA放出促進によると考えられた.
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