研究概要 |
脊髄虚血・対麻痺は、胸腹部大動脈瘤手術における最も重篤な合併症であるが、未だその予防、治療法が確立されていない。遅発性対麻痺(遅発性神経細胞死)の病態に炎症反応が関与する可能性に着目し、近年炎症反応後期に増加するといわれるhigh mobility group box 1 (HMGB1)蛋白の存在が遅発性神経細胞死の病態進行に関与するという仮説をたて検討した。全身麻酔下に家兎(2~3kg)の側腹部を切開し、後腹膜アプローチによる腎動脈下大動脈遮断(13分間)を行い、脊髄虚血を作成した(SEPの振幅低下で確認)。HMGB1を中和するために、ニワトリ抗HMGB1ポリクローナル抗体(SHINO-TEST Co. Sagamihara, Japan)を用いた。家兎を対照群(C群)、抗HMGB1抗体低用量群(L群)、高用量群(H群)の3群に分け、抗HMGB1抗体を脊髄虚血直前(L群400μg、H群800μg)、虚血再灌流6、18時間後(L群300μg、H群600μg)に静注し、対照群には同タイミングで生理食塩水0.8ml、0.6ml、0.6ml(H群と投与容積は同じ)を静注した。虚血後7日間経過観察し、後肢運動機能(5段階:4正常、3ジャンプ出来るが、ぎこちない、2下肢を折りたためるが、ジャンプ不可、1下肢伸展だが、大腿に力が入る、0下肢伸展し、大腿に力が入らない)と感覚障害(3段階:2正常、1鈍麻、0麻痺)の程度を記録し、灌流固定後脊髄を取り出し、病理組織学的に第5腰髄レベルの前角・運動神経細胞数を評価した。後肢運動機能に関して、C群(3:1羽、0:5羽)に対し、L群(0:3羽)、H群(2:1羽、1:1羽、0:1羽)と差を認めなかった。感覚障害は全てで麻痺を認めた。また脊髄の残存運動神経細胞数に差を認めなかった。遅発性神経細胞死の病態にHMGB1の関与が少ない可能性が考えられる。
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