【目的】脳損傷後の二次的脳障害発生に脳内一酸化窒素(NO)やサイトカインが関与する。活性化マイクログリアはこれらの産生を介しニューロン障害を引き起こす。よって、脳保護を目的とした脳低温療法はマイクログリアのNOやサイトカイン産生を軽減する可能性がある。本研究では、脳損傷時に増加する内因性のマイクログリア活性化物質、アデノシン三リン酸(ATP)を用い、マイクログリアのNOとサイトカイン産生ならびにそれらの産生に関与するp38 mitogen-activated protein kinase(p38 MAPK)活性化に培養温度変化が及ぼす影響を調べた。 【方法】新生仔ラット脳より単離したマイクログリアをATPで刺激し、33-37-39℃下で培養した。培養上清中のNO_2^-とサイトカイン(炎症性 : IL-6、抗炎症性 : IL-10)濃度(6時間培養後)ならびに細胞内p38 MAPK活性化(15分間培養後)を測定した。 【結果】NO_2^-産生は37℃に比べ33℃では低値、39℃では高値を示した。IL-6産生は37℃に比べ33℃では低値を示し、39℃では差がなかった。IL-10産生は培養温度間で差がなかった。また、p38 MAPK活性化は37℃に比べ33℃では低値を示し、39℃では差がなかった。 【結論】軽度低温は、ATP活性化マイクログリアのNOとIL-6産生ならびにp38 MAPK活性化を抑制した。よって、脳低温療法による脳保護作用の一機序に、活性化マイクログリアのp38 MAPK活性化阻害を介した早期での炎症性反応抑制(NOやIL-6産生抑制)が関与することが示唆された。また、高温下ではNO産生のみ増加した。この早期でのNO産生の温度依存的変化は、脳低温による神経保護および脳高温による神経障害において、NOが重要なマーカーになりうることを示唆する。
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