敗血症性ショックなどの過大侵襲時には、消化管は臓器障害の最初の標的である。その構造的、機能的障害は、病態増悪の引き金となる。多臓器不全への進展を防ぐためには消化管障害の予防が重要で、特に腸管血流の維持が重大な役割を持つ。これまで動物実験において様々な薬剤、とくに循環作動薬が腸管血流維持目的に投与されたが、有効性が証明されたものはない。エンドトキシンショックおよびエンドトキシン血症における腸管血流低下機序としては、交感神経系およびレニン・アンギオテンシン系(RAS)の活性化が重要であり、特にRASが腸管循環の制御に大きく関与している。心不全治療薬であるカルペリチド(hANP)は、血管拡張作用、尿量増加作用を持つが、RAS抑制作用も有するとの報告があり、これまでに我々は、ブタエンドトキシン血症モデルにおいて、カルペリチドの前投与が、体循環維持作用、肺高血圧抑制作用、肺障害抑制作用、腸管、特に腸管粘膜血流維持作用を持つことをアメリカ麻酔学会にて報告し、現在海外の麻酔・集中治療関連雑誌に投稿中である。敗血症発症前での投与は、臨床上困難であると思われるが特定の状況下、特に下部消化管穿孔患者における早期投与などにおいて、多臓器不全への進展を阻害しうる可能性がある。今後本研究では、ブタエンドトキシン血症モデルを用いて、カルペリチド後投与および、各種昇圧剤、強心剤との併用が腸管循環改善作用を持つとの仮説を証明する。
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