中枢性疼痛の発現機序を解明するに当たり、まず脳内交感神経受容体と中枢神経活動の関連を求めるためにwhole animalで次の通り実験を行った。8週齢、体重350-400gのSD系雄ラットを用い、ケタミンによる全身麻酔下でラットを定位脳固定装置に固定し、Bregmaの後方0.8mm、右外側1.5mmにドリルでバーホールを作成し、ガイドカニューレを留置して一旦覚醒させた。24時間以上経過の後にセボフルランによる全身麻酔下で頸動静脈にカテーテルを入れ、再度覚醒させた。次に交感神経β受容体作動薬遮断薬であるプロプラノロール10または30μg/kg(各々CS、CL群)を脳室内に直接投与した。対照群(CC群)では同量の生理食塩水を脳室内に投与した。これらの投与5分後に鎮痛作用のあるリドカインの持続投与を投与した。その結果、プロプラノロールのみでは活動性や呼吸・循環に殆ど影響は無かったが、リドカインの投与により心拍数が低下するとともに、CS群、CL群ではCC群に比べて痙攣発生までのリドカインの投与量が増加し、中枢神経系に対する抑制作用があることが判明した。次にマイクロダイアライシス法の手技を確立するため、Bregmaの前方1.7mm、右外側1.4mmにマーキングの上、頭蓋骨表面より6mmの深さまでガイドカニューレを進め、先端が側座核(nucleus accumbem)に位置するようにした上で覚醒させた。2-3日後にガイドカニューレをマイクロダイアライシスプローブに交換後、シリンジポンプを用いて、人工脳脊髄液で灌流し、得られた灌流液をフラクションコレクターで収集し、マイクロダイアライシスによって脳内のリドカインの濃度を定量した。ただし高速液体クロマトグラフによるドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの分離・定量には至らなかった。測定機器の感度が十分でないことが原因であると考えられ、今後はより感度の高い高速液体クロマトグラフ質量分析装置による定量を試みる。
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