妊娠を契機に発症する高血圧は、母体および胎児の周産期予後に重大な影響を及ぼすため、麻酔管理においても懸念すべき合併症である。子癇前症・子癇を含む妊娠高血圧症では一酸化窒素を介した血管拡張機構が障害されていることが示されているが、脳浮腫および脳出血の責任血管であると考えられる大脳皮質内に埋没する微小脳血管において、NOあるいはEDHFの血管拡張因子を介する血管拡張機構が妊娠高血圧症で障害されているか否かを直接示した研究はこれまでない。本研究では、妊娠後期のラットに一酸化窒素合成酵素阻害薬であるL-NAMEを与え、母体の血圧上昇、子宮胎盤血流障害および胎児発育遅延など子癇前症に似た病態を作製し、妊娠高血圧モデルとして使用した。大脳新皮質を含むスライス標本(厚さ125μm)を作成し、光学顕微鏡(IX71-23DIC、オリンパス)を用いて大脳実質内動脈(径5-10μm)を観察した。プロスタグランデインF_<2α>(0.5μM)で標本中の動脈を収縮させたのち、アセチルコリンによる血管拡張反応を観察した。揮発性麻酔薬イソフルラン、セボフルラン(0.5-2.0MAC)を通気ガスに付加、あるいは静脈麻酔薬プロポフォール(0.1-10μM)、ケタミン(0.1-10μM)あるいは局所麻酔薬リドカイン(1-50μM)を投与した場合の血管の反応を観察し、これら麻酔薬による脳血管反応性の変化が、一酸化窒素合成酵素阻害薬、各種カリウムチャネル拮抗薬、可溶性グアニレートシクレース阻害薬、およびNMDA受容体拮抗薬処置で抑制されるか否かを検討した。現在、得られた結果を解析しているところであるが、妊娠高血圧症の病態解明、さらにはこれら病態時の麻酔薬作用の解明のために極めて有効な研究であると期待される。
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