本研究の目的は、吸入麻酔薬による興奮の分子細胞機構を解明することである。具体的には現在までに証明した吸入麻酔薬によって誘発される青斑核の興奮が、行動上の興奮を引き起こすという新たな事実を証明することにある。以上の目的を遂行するために、本年度は以下の実験を行った。 スライスパッチ:セボフルレンによって誘発される青斑核の興奮は、cyclic AMPを増加させるforskolin存在下でも非存在下同様に誘発された。それに対し、protein kinase C(PKC)を活性化するPhorbol-12-myristate-13-acetate存在下では、非存在下と異なり、青斑核の興奮を誘発しなかった。セボフルレンによる青斑核の興奮にはPKCが関与していると考えられた。 行動実験:前年度に作成した行動計測実験装置を用い、ラットの吸入麻酔薬に対する反応を記録した。2軸加速度センサから入力された記録を解析した。解析にはノイズの除去等を考慮したプログラムを作成した。結果として、動物の行動をデジタル信号に変換することに成功した。麻酔ガス投与による動物の行動は吸入麻酔投与後、有意に増加した。各吸入麻酔薬間での差は有意差はないもののセボフルレン、イソフルレン、ハロタンの順序に吸入麻酔薬に対する反応が大きかった。また、反応の順序は各吸入麻酔薬によって誘発される青斑核の興奮の強度と同じ順序であったことから、吸入麻酔薬の興奮に青斑核が関与している可能性を示唆するものであると考えている。
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