・マウス前立腺炎モデルの確立 ラットに経尿道的にリポポリサッカライド(LPS)を投与すると前立腺炎が発生するが、同様の手技によりマウスで前立腺炎が発生させることができるかどうか確認するための実験を行った。LPSに対する感受性が高い系統であるC3H/HeNを用いて、LPS(1mg/ml)を21ゲージサーフロー針を用いて投与したが尿道が狭く尿路外溢流をきたし、前立腺炎を発生させることは極めて困難であることが明らかになった。来年度もマウスの系統を変える、週齢を変える等引き続きLPSの経尿道的投与による前立腺炎モデルを確立するための実験を行う予定である。 ・ラット前立腺炎モデルの検討 LPSの経尿道的投与によるラット前立腺炎モデルの経時的な変化を検討した。LPS投与3日目は管腔内に炎症細胞の浸潤を認め急性前立腺炎の像を呈していた。急性前立腺炎に伴い、分化した前立腺上皮細胞であるサイトケラチン8陽性のluminal cellがアポトーシスを起こして腺管より脱落していた。LPSを投与して2週たつと、間質にリンパ球の浸潤を認め、慢性前立腺炎の像を呈していた。慢性前立腺炎の中に、未熟な細胞集団であるサイトケラチン14陽性のbasal cellのみで形成された小さな腺管が多数見られ、また、前立腺上皮の幹細胞マーカーであるCD133陽性細胞が多数見られ、慢性前立腺炎の中で上皮が再生していく様子が観察された。LPSを投与して8週後にも慢性前立腺炎は持続しているが、前立腺上皮はbasal cellとluminal cellの2層構造をした成熟した腺管がcribriformを呈しながら再生していた。以上の結果より、炎症による組織傷害と再生が起こっていることが確認され、この前立腺炎モデルは炎症による発癌研究に適したモデルであることが改めて確認された。
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