研究概要 |
マウスにリポポリサッカライド(LPS)を経尿道的に投与することで前立腺炎を引き起こし、炎症と前立腺発癌の関係を調べることが目的であったが、マウスの尿道よりLPSを注入することは手技的に困難であったため、ラットを用いて実験を行った。 <ラットを用いた炎症による発癌実験> 炎症が前立腺の発癌を促進する作用があるのかどうかを調べるために、ラット前立腺に対して発癌作用のある2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine(PhIP)を少量投与したラットが、LPSの経尿道的投与によって引き起こされた前立腺炎で発癌が促進されるかどうか検討した。具体的な方法としては、PhIPを20週間投与し、中間の10週目にLPSを単回経尿道的に投与した。PhIPの代わりに生食を投与する群、LPSのかわりに生食を経尿道的投与する群を対象として設定した。PhIPを投与したラットでは、PhIPを投与しなかった群と比べてLPSの投与による急性前立腺炎による死亡率が有意に(53.6%vs. 9.1%)高く、前立腺の発癌物質であるPhIPは炎症を促進させる作用があることが考えられた。1年間生存したラットの発癌率を検討したところ、PhIPを投与してLPSで前立腺炎を起こしたラットの発癌率は69.2%と、PhIPを投与しただけの群の発癌率の29.4%と比べて高く、LPSによる前立腺炎によって発癌のリスクは2.35倍(95%信頼区間1.08-4.74)有意に上昇した。また、癌の周囲には肥満細胞が多く認められ、このような自然免疫系の細胞が発癌に関与している可能性が考えられた。以上のラットを用いた実験により前立腺発癌において前立腺炎が発癌を促進していることが示唆された。
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