前立腺癌の増悪機構に関して、前立腺癌細胞株ならびに前立腺間質細胞を用いて、それらがどのように関わりあってそれに寄与しているか、さらにはある種の生存に関係するといわれているタンパクの前立腺癌組織での発現レベルを調べ、clinical dataとの相関を検討した。すなわち胎児の尿路原基などで過剰発現するsonic hedgehog(Shh)シグナル伝達系が、これらとどのように関わるかを、その阻害剤である、Cyclopamine(Cyc)を用いて検討し、さらにそのShhシグナル伝達とAndrogen receptor(AR)シグナル伝達がどのようにLinkするかも検討するため、dihydrotestosterone(DHT)を上記細胞株にin vitroで作用させて、それらが、CycでBlockされ得るかを検討した。その結果、前立腺癌細胞株LNCaPはDHTの作用により、その細胞の増殖が増強され、Cycの添加によりそれが抑制される事を見出した。またその抑制はCycの濃度依存性であった。さらに前立腺間質細胞においても同様の実験を行い、癌関連部位由来間質細胞、非癌部位由来間質細胞での差異を認めた。すなわち前立腺非癌部位由来間質細胞のみがShhシグナルとARのLinkに関与する可能性が示唆された。また前立腺癌摘出標本を用いた免疫染色において、骨、生存マーカーとして知られるOsteonection(ON)、Shh、Shhシグナル伝達系の下流タンパクであるGli 1、さらにAR、Ki67に関して検討し、これらの過剰発現と臨床の現場で患者の前立腺癌の悪性度を測る指標として知られるGleason score、さらに前立腺癌の腫痛マーカーである前立腺特異抗原PSAの2つのマーカーとの関連を統計学的に検討し、前立腺間質領域でのONの過剰発現と血清PSA値が有意に相関し、さらにKi67の過剰発現とGleason scoreとが有意に相関する結果を示した。これらのdataから、ONのむしろ前立腺上皮(癌は主に上皮より発生)よりも間質においてその発現は前立腺癌の生存さらには骨化(骨転移能の獲得)に、上皮間質相互作用により寄与する、という知見が得られ、ホルモン抵抗性前立腺癌の一つの生存シグナルとなりうる可能性が示唆された。
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