アンドロゲン受容体はステロイド受容体に属する核内受容体でアンドロゲン依存性に前立腺癌の発生、増殖に関与している。前立腺癌の悪性度や予後との関連が報告されている負の細胞周期制御因子のサイクリン依存性キナーゼインヒビターに着目した。正の細胞周期制御因子であるサイクリンE、サイクリンD1、サイクリン依存性キナーゼはアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞であるPC3、DU145、LNCaP-HRで高発現を認めたが、アンドロゲン依存性前立腺癌細胞株LNCaPでは低下していた。一方、負の制御因子であるサイクリン依存性キナーゼインヒビターp27、p57の発現はアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞で明らかに低下していた。なかでもp57の発現に関してはLNCaPで認められた発現がLNCaP-HRでは消失していた。前立腺組織免疫染色でも、p27、p57の発現が前立腺正常組織と比較して前立腺癌組織では低下し、ホルモン耐性となった前立腺癌組織ではp57の発現が殆ど認められなかった。同様の核内受容体であるPPARγ (Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ)は前立腺癌組織内での発現が高く、その内因性リガンドであるProstaglandin J2や外因性リガンドのチアゾリジン誘導体であるTroglitazone、Pioglitazone、Rosiglitazoneにより前立腺癌細胞の増殖は抑制された。これまでの研究で、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞株や前立腺癌組織内で発現が低下したサイクリン依存性キナーゼインヒビターp57及び前立腺癌組織内で高発現していた核内受容体PPARγは前立腺癌のホルモン耐性機構、前立腺癌の増殖抑制に影響を与える重要な因子と考えられた。
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