精巣における精子幹細胞の自己複製や精子への分化は正常な造精機能を維持するために緻密に調節されている。しかし、制御機構については不明な点が多く、全容は明らかではない。マウスにおける精子幹細泡については研究も進んでおり、in vitroでの培養も可能となっている。不妊マウスの精巣への精子幹細胞を移植した場合に、造精機能が回復することはすでに知られている。しかしながら、ヒト精子幹細泡においては殆ど研究は進んでいない。これは、ヒト精巣組織の採取が困難であることがあげられる。我々は、リプロダクションセンターを有しており、国内の男性不妊における中心を担っている。この利点を生かし、ヒト精子幹細泡の研究を行っている。マウス精子幹細胞の分離でThy-1(CD90)が用いられている。この分子は、Es細胞や繊維芽細胞にも発現している分子であるが、効率よくマウス精子幹細胞が分離できることが報告されている。我々は、この手法を真似て、ヒト精巣組織より、ヒト精子幹細胞が分離できないかどうか、検討を行った。精巣組織は、コラゲナーゼおよびDNase処理を行い、さらに30%Percollにて分離を行った。精巣細胞混濁液を抗Thy-1抗体磁気ビーズと混ぜて、Thy-1陽1生細胞の分離を行った。分離した溶液中には、Thy-1陽性細胞が含まれていることをRT-PCRにて確認した。さらにこのThy-1陽性細胞は、マウス同様にSTO細胞をフィーダー細胞として無血清培地にて1週間の培養が可能であった。また、細胞群はブドウ状のクランプを形成した。1週間培養した1hy-1陽1生細胞群の発現マーカーをRT-PCRにて確認した。(ht3/4、Nanogの発現がみられた。マウス精子幹細胞ではNanogの発現は報告されておらず、ヒトでの違いが明らかとなった。さらに、in vitroでの解析を行うために、ヌードマウスにThy-1陽性細胞群を摂取した。6ヶ月を経ても、腫瘍の形成はみられず、多能性の性質は持ち合わせていないことが証明された。Thr-1陽性細胞群にヒト精子幹細胞が含まれている可能性が示唆された。今後の課題としては、Thy-1陽性細胞の培養は限られており、培養方法の改善に努めたい。
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