我々は平成20年度までに、マウス卵巣高転移モデルを樹立し、モデルを用いた検討から、E-cadherinの発現低下が卵巣特異的転移に関与していることを明らかとした。さらに、転移性卵巣腫瘍症例における臨床病理学的検討により、E-cadherinの発現低下が転移性卵巣腫瘍における卵巣間質の増殖と有意な相関を示すことを明らかとした。胃癌など卵巣から遠隔の臓器からの転移はseed and soil theoryに従った卵巣特異的転移であり、E-cadhrinの発現はこれを阻害し、癌細胞と卵巣間質細胞との間の癌・間質相互作用はこれに促進的に働くと考えられた。 平成21年度においては下記の研究を実施した。 (1)転移性卵巣腫瘍症例における免疫組織学的検討 転移性卵巣腫瘍の臨床症例30例(慶應義塾大学病院における手術例及び剖検例)において、細胞の増殖や生存に関与するシグナル伝達系に作用するp-Aktの発現を免疫組織学的に評価したところ、転移性卵巣腫瘍のうちE-cadherin発現が低下し間質増殖が著しい症例では、癌細胞におけるp-Aktの発現が著明であることが明らかとなった。転移性卵巣腫瘍における癌・間質相互作用の存在と、その相互作用の系におけるE-cadherinの阻害的関与を示唆するものと考えられる。 (2)卵巣高伝移性細胞株と卵巣間質細胞との共培養における検討 卵巣特異的転移機序及び癌・間質相互作用について検討を行うため、GFP標識した卵巣高転移性癌細胞株およびそのE-cadherin発現クローン、mockクローンをマウス卵巣間質初代培養細胞と共に接触・非接触条件下で共培養し、各細胞の増殖能について検討を行った。この結果、接触・非接触培養下のいずれにおいても増殖能に有意な変化は見られなかったが、培養及び細胞数カウントの系が複雑であったために有意差が得られなかった可能性がある。
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