研究課題
本研究では子宮頸癌におけるpSTAT3と免疫抑制の関係を明らかとし、STAT3を標的とした治療をがんペプチドワクチン療法に応用した新たながん免疫療法の開発のための基盤研究を確立することを目的とした。子宮頸癌局所における抗腫瘍免疫応答とpSTAT3発現および予後との関連についての検討を行った。子宮頸癌の診断で広汎性子宮全摘術を施行した73例を対象とした。本年度は追跡期間を延長して再検討を行った。追跡期間の中央値は111ヶ月(13-161ヶ月)であった。再発例は12例あり死亡例は10例であった。免疫組織化学にて腫瘍内浸潤リンパ球(TILs)を検出した。細胞傷害性T細胞(CTL)はCD8、制御性T細胞(Treg)はFoxp3の発現を指標として評価した。TILsの数は対物レンズ20倍で最も多い3視野の平均で算定した。そして、予後の差が最も大きくなる点をカットオフ値とした。臨床病理学的因子は、年齢、臨床進行期、腫瘍径、間質浸潤、脈管侵襲、基靱帯浸潤、骨盤リンパ節転移を検討項目とした。我々はpSTAT3の発現を免疫組織化学で検討し予後不良と相関していることを報告した(Takemoto et al.Br J Cancer,2009)が、この発現とCTL浸潤およびTreg浸潤との関連はみられなかった。子宮頸癌における予後に与える因子の検討を行ったが、単変量解析では腫瘍径が4cm以上、高度間質浸潤、基靱帯浸潤陽性、CTL浸潤陰性が予後不良因子であった。さらにこれらの項目で多変量解析を行ったところCTL浸潤陰性のみが独立した予後不良因子であった。子宮頸癌細胞株においてSTAT3のsiRNAを用いてpSTAT3発現を抑制したところ、VEGF発現が抑制されていることをWestern blottingで確認し、TGF-betaの産生が抑制されていることをELISAにて確認した。以上のことから、CTLの浸潤が早期子宮頸癌(I、II期)において強力な予後良好因子であることが分かった。また、本研究ではpSTAT3とTILsの直接的な関連は認められなかったものの、免疫抑制を惹起する分子の調節因子であることから、がん免疫療法におけるSTAT3を標的とした療法の有用性があることが示唆された。
すべて 2009
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British Journal of Cancer 29
ページ: 967-972