研究概要 |
嗅覚の高次な脳機能の解明には、においを感じている時の脳活動をリアルタイムに測定することが不可欠である。近赤外線分光法Near-infrared spectroscopy (NIRS)は、嗅覚中枢における酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの変化を通じて脳活動の評価が可能である。今年度は眼窩前頭皮質(OFC)における酸素化ヘモグロビン濃度、脱酸素化ヘモグロビン濃度、および総ヘモグロビン濃度を、一つの送光用プローブと2つの受光用ディテクタのセットになったセンサー(Omega Monitor BOM-L1W, Omega Wave Co.Ltd., Tokyo, Japan)を備えた近赤外線分光法(NIRS)を用いてリアルタイムに測定する実験を実施した。センサーは両側の眼窩の上にあたる前頭部の頭皮に、送光用プローブと、同プローブから20mm及び40mm離して受光用ディテクタを装着した。対象は正常な嗅覚を有する14人の女子大学生とした。提示するにおいとしてはフェニルエチルアルコール(バラのにおい)とシトラール(レモンのにおい)を用い、被検者に間欠的に提示した(30秒間隔を約8回反復)。被検者は匂いを感じれば手元のスイッチで応答を行い、同時にNIRSを用いて眼窩前頭皮質の測定を実施した。実験終了後に、被検者ににおいの種類・においの強さ・においの快不快のアンケートを行った。結果は、左眼窩前頭皮質で総ヘモグロビン濃度に主効果を認めた(p=0.04)。また、においの種類の正誤で比較した場合に、右の総ヘモグロビン濃度に主効果を認めた(P=0.0008)。今回匂いを嗅ぐという行為においては、左のOFCが活性化されることがわかった。また匂いの識別・認識においては右のOFCが関与しているものと考える。NIRSを用いた研究は匂い刺激における様々な脳部位の機能的な役割の理解に寄与すると考える。
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