研究概要 |
本年度の研究では、虚血性内耳障害に対する低体温の保護効果を明らかにするため、スナネズミの一過性内耳モデルを用いて一過性虚血後に低体温を施行し、ABR閾値と内有毛細胞の脱落率を算出しで常温群と比較検討を行った。 ハロセン吸入麻酔下に直腸温を37℃に保って両側の椎骨動脈を露出し、15分間血流を遮断・再開通することにより一過性虚血を負荷した。低体温の負荷は、虚血後1、3、6時間の時点の3点から、3時間、直腸温を32℃に維持して行った。(それぞれ低体温A, B, C群とする。)実験前、1、4、7日後のABR閾値を測定して聴力閾値の経時的変化を評価した。7日目に深麻酔下に4%パラホルムアルデヒドにて経心灌流固定し骨胞を摘出、基底回転のコルチ器を採取した。核と聴毛の療法を観察するためにロダミン・ファロイジンで30分間、ヘキスト33342で60分間染色を施行した。グリセロールで封入後、蛍光顕微鏡下に観察して内有毛細胞の脱落細胞率を算出し、常温群と低体温3群を比較検討した。常温群では1日目に約30dbのABR閾値の上昇がみられ、その後徐々に回復したが7日目にも約23dBの閾値上昇が残った。低体温A, B群では閾値上昇は1、4、7日目いずれにおいても常温群より軽減されていた。低体温C群では1、4、7日目いずれにおいても常温群と差を認めなかった。基底回転内有毛細胞の脱落細胞率(7日目)の平均値は、常温群で16%、低体温A, B, C群でそれぞれ7、10、13%であった。常温群と低体温A群との間に統計学的な有意差が認められたが、B群とC群との間には有意差は認められなかった。 以上の結果から、虚血後の低体温は虚血性内耳障害に対し保護効果を有することが明らかになった。低体温は虚血性内耳障害に対して有効な治療法となりうると考えられるが、治療開始が遅れるとその効果が減弱する可能性が示唆された。
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