研究概要 |
致死的な脳虚血を負荷する前に予め軽微な虚血を負荷しておくと、脳組織の障害は軽減され死滅を免れることが知られている。この現象は、虚血耐性現象(ischemic tolerance)と呼ばれており、中枢神経は虚血という破滅的な病態に対して虚血耐性という対抗手段を持っていることが明らかとなっている。今回我々は内耳虚血モデル動物を用いて、脳組織と同様の虚血耐性現象が内耳でも認められるかどうかを検討した。その結果、内有毛細胞に対して致死的な15分間の内耳虚血を加える2日前に非致死的な2分間の虚血を加えると(虚血耐性[R]群)、15分虚血だけを負荷した(致死的虚血[I]群)際に見られる内有毛細胞死が有意に抑制(7.7%[R群]v.s.15.2%[I群],p<0.01)された。更に聴性脳幹反応(auditory brain stem response)を測定すると、虚血性障害による閾値上昇の有意な改善(10.7dB[R群]v.s.34.3dB[I群],p<0.05)が認められた。以上の結果より中枢神経系と同様な耐性機構が内耳にもあることが明らかとなった。耳科臨床領域では、内耳虚血は突発性難聴の病態の一つと言われている。突発性難聴に再発が稀である点は、本研究で明らかになった内耳における虚血耐性現象によるものと考えられた。また、内耳における虚血耐性現象の発見は虚血性内耳障害の分子機構の解明やその治療法を開発する際の重要な知見となると考えられた。本年度はこの研究成果を内外に発表した。内耳における虚血耐性現象の分子機構を解明のため、遺伝子発現解析と検討を今後の課題としたい。
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