申請者は20ng/ml TNF-α(炎症性サイトカイン)と1μMレチノイン酸(粘膜分化に必須の栄養素)とともに中耳粘膜細胞を培養することによって多数の杯細胞を誘導する炎症性杯細胞化生モデルを確立している。この系でMath1(杯細胞発生時に杯細胞への分化を決定する転写因子)を遺伝子導入すると、さらに多くの杯細胞を誘導することができることから、Math1は炎症による杯細胞化生においても中心的な役割を果たしていると考えられる。このモデルを使用し、主要な分子の誘導機序や、杯細胞化生に特徴的なシグナル伝達経路を解析した。その結果、Math1は主にレチノイン酸により活性化され、EGF(表皮成長因子)受容体のチロシンキナーゼ阻害剤(AG1478)により有意に抑制されることを発見した。しかしながら、EGFレセプターのリガンドであるEGFはMath1を活性化することができないため、リガンド非依存的な経路によりMath1が活性化されていると考えられる。EGF受容体チロシンキナーゼの制御により杯細胞化生を予防する治療が開発できると考えられる。
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