骨導超音波を用いた補聴システムの臨床応用につなげるため、骨導超音波の知覚メカニズムについて脳磁図を用いた検討と実際に補聴システムに用いた場合の効果を評価するための聴覚心理実験を行った。まず脳磁図での検討では、言語音で変調した骨導超音波の刺激持続時間が聴覚野の反応に及ぼす影響について測定した。その結果刺激持続時間が延長するごとに反応の大きさが有意に上昇することがわかった。その効果は刺激持続時間が40msでほぼ飽和することがわかった。可聴音と比較すると、飽和する刺激持続時間は延長することが分かった。このことは同じ言語情報でも可聴音と骨導超音波を用いて伝えた場合にその信号処理に違いがあることを示しているものと考えられた。また聴覚心理実験では語音信号で骨導超音波を変調し、どの程度の明瞭度が得られるかを測定した。その結果聴力正常者では80%以上の良好な明瞭度が得られた。また語音の異聴傾向について検討してみると、通常の気導音の場合と異なり、母音の異聴が起きる場合が多いことが分かった。さらに日常生活のコミュニケーションでは通常聴覚情報だけでなく、視覚情報の役割も重要になってくる。そこで視覚情報が明瞭度に与える影響について検討を行うと、視覚情報があることで明瞭度を有意に改善させることがわかった。現時点では難聴者では聴覚刺激だけでは聴力正常者のように十分な明瞭度を得ることは難しい。今回の検討では視覚情報を併用することで、明瞭度を上昇させ、難聴者であっても実用に耐えれる効果が得ることができる可能性を示した。今後難聴者に対する効果については視覚情報の影響を含めて評価していくことが重要であると考えられた。
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