まず聴力正常者を対象に、骨導超音波の知覚に関するマスキングの心理実験を行い骨導超音波の知覚メカニズムの解明を行った。その結果14kHzを中心とした高周波音が骨導超音波をマスキングすることが分かった。またマスキングの強さを大きくすることでその中心周波数は低い周波数へと移動することが分かった。これまで検討を行った骨導超音波による可聴音のマスキングの結果を合わせて検討すると、骨導超音波の末梢の知覚部位は蝸牛の基底回転にあることが分かった。またマスキングの強さがマスキング量に及ぼす影響からその知覚の主体は超音波自身による内耳の刺激が関与している可能性が高いことが分かった。次にこのことをさらに難聴者を用いて検討した。難聴者の聴力と骨導超音波の閾値の関係を検討すると、より高い周波数の聴取閾値がより強く骨導超音波の閾値と相関していた。また聴力型を見ると高音障害急墜型のように高い周波数で閾値が急激に上昇し有毛細胞の障害が予想される症例では、骨導超音波の閾値が高いことが分かった。またほぼ全周波数がスケールアウトに近い重度難聴者であっても骨導超音波が聴取できる症例があるものの、低音域の閾値が低い症例でも1kHz付近で閾値が急激に上昇しそれより高い周波数でスケールアウトする症例では骨導超音波が聴取不可能であった。以上の結果は聴力正常者で推定された聴取メカニズムを支持する内容であった。これらの結果から推定すると骨導超音波を用いた補聴器の適応は基底回転の有毛細胞が残存する症例でなければならないと考えられた。また基底回転付近の刺激は、強弱については伝達可能であるが、周波数弁別は困難であると推測され、現時点では実際の補聴器にする場合は視覚情報などの手助けが必要であると思われた。
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