研究概要 |
可聴音が全く聞こえない最重度難聴者であっても,超音波を語音で振幅変調すると語音が弁別できる場合がある。この現象を用いた補聴システム(骨導超音波補聴器)の開発が進められているが,いまだその知覚部位や聴取メカニズムは解明されていない。音の知覚に最も関連が深い側頭骨内を含む体内各部の音圧・応力分布が明らかになれば,骨導超音波補聴器の実用化などに大きく寄与することができる。 研究代表者らのグループでは,これまで海綿骨・皮質骨・骨髄を伝搬する超音波の挙動や,頭部CTモデルを用いた頭部内音場分布,3次元の人体の全身モデル等について,モデルの構築とシミュレーションおよび実測により詳細な検討をおこなってきた。また新しい概念に基づく骨粗霧症診断装置を提案し,その実現可能性を検討してきた。 これらのために独自に微細構造を持つ弾性体中の音波伝搬シミュレーションソフトウェアを開発してきたが,この技術は,側頭骨なども含めて広範な適用が可能であると考えられる。しかしながら,現時点ではシミュレーション技術は完全なものではなく,細部においては実測結果との比較検討が必要な段階であることも事実である。特に,海綿骨のような複雑な構造を持つ媒質や,軟骨のような柔らかい媒質内での挙動は実測値との乖離が比較的大きく,より詳細なモデルの構築が必要である。このため,本年度も昨年度に引き続き海綿骨を題材にして構造的異方性などに焦点を当てて詳細な検討を続け,構造異方性が音波伝搬に与える影響等について,シミュレーションと実測との比較検討などにより新たな知見を得た。 また,これと並行して,骨導超音波の知覚メカニズムの解明と補聴器の実用化に向けて,骨導超音波呈示時の脳活動の測定や実用時に必要となる読唇を併用した音声聴取などについて検討を進めた。
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