耳鼻咽喉科外来には多種多様のめまい患者が受診するが、末梢性めまいか中枢性めまいの鑑別に苦慮する場合が多い。眼振検査などの神経耳科的検査により典型的な中枢性めまいを診断することは可能であるが、ある程度症状が進行するまで鑑別が困難な場合も多い。Tauberら(1972)はREM睡眠中の健常人に回転加速度など前庭刺激を加えても眼振が誘発されることはないと報し、またEisensehrら(2001)は前庭神経炎の患者の病的眼振がREM睡眠時には抑制されREM睡眠特有のRapid Eye Movementは抑制されず記録されると報告している。またAppenzellerら(1968)は前庭神経核の障害でREMが消失することを報告し、Kawamotoら(1980)は中枢性疾患においてREM睡眠下のとりわけ垂直性眼振が正常者と比べ強調されることを報告している。これらの特徴を利用することで末梢性眼振と中枢性眼振との鑑別が可能になるという仮説を立てた。今回の研究の目的は、睡眠脳波と眼球運動を同時測定しその結果を各種めまい疾患で比較検討・分析をおこない、REM睡眠下の眼振解析によるめまい診断法を確立することである。平成20年10月に病院倫理委員会の承認を得られ、現在、正常ボランティアおよび耳鼻咽喉科入院患者データの収集および解析を行っている。現時点での結果では、末梢性めまい患者では過去の文献に記されるようにREM睡眠下では病的眼振はほとんど消失することが確認された。また、REM期以外でも病的眼振の消失あるいは低下が認められ、Non-REM期では睡眠深度が影響する可能性を考えた。今回の試みは国内・国外ともにこれまで扱われたことのない研究であり、発症比較的初期から末梢性めまいと中枢性めまいを鑑別できる可能性があり、めまい患者のより早期の社会復帰が可能となるだろう。今後より多くの症例の集積が必要である。
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