難聴治療に応用するため、音響外傷モデルマウスに対してインターロイキン6阻害剤を投与し、その効果を機能的、組織学的に解析し、機序について検討した。 昨年度までに薬剤投与による聴力の改善(機能的な効果)とらせん神経節細胞(中枢へ神経刺激を伝達)の変性の抑制(組織学的な効果)を確認した。今年度はこれまでに報告されているインターロイキン6とマクロファージの関連に着目し本薬剤の作用機序について検討した。音響外傷マウスの内耳(らせん神経節)には音響外傷前と比較して約4から5倍のマクロファージが認められ、薬剤投与群では有意にその増加が抑制されていた。これらのマクロファージは音響外傷後3日目をピークに一過性に上昇していた。このことから増加したマクロファージは血管内から内耳へ遊走してきた可能性が高く、過去の報告では血管由来のマクロファージは組織障害性が高いと考えられており、本薬剤の機序との関連が示唆された。すなわち、音響外傷により血管内から障害性の高いマクロファージが内耳へ遊走するのを薬剤が抑制し、その結果、らせん神経節細胞の変性が軽減し、聴力の改善をもたらしたと考えられた。この機序についてはさらに詳細な検討を要するが、以上より音響外傷モデルマウスにおいてインターロイキン6阻害剤が有効に機能し、難聴治療へ応用できる可能性が示された。 今後はすでに関節リウマチなどで臨床応用されている本薬剤のヒト化抗体を難聴治療へ応用する方向で検討したい。
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