唾液腺癌は症例数が少なく、組織型が多彩な癌である。そして組織型によっては予後が良いものと悪いものがある。その中でも唾液導管癌は悪性度が高く、治療抵抗性で再発、転移を繰り返す予後不良な癌である。我々はこの唾液導管癌に着目し、治療成績の向上のためにその増殖や転移のメカニズムを解明しようと近年特に話題となっているYボックス結合蛋白(YB-1)とHER2を主な標的分子として研究対象に選んだ。そして唾液導管癌における悪性度についてこれらが新しいバイオマーカーと成り得るかを検討した。 YB-1の核内発現は近年、肺癌や乳癌などで癌の大きさやリンパ節転移、病期の進行と病理学的に関連があると報告されている新しい蛋白質である。またHER2もその発現が様々な癌で予後と関連し、分子標的治療の対象となる蛋白質である。我々は唾液導管癌とその他の唾液腺癌の病理標本を用意し、免疫組織化学という手法を用いて癌の悪性度や転移、予後を病理学的に検討した。その結果、唾液導管癌はYB-1とともにHER2の発現が増加し、それと共にリンパ節転移の頻度が増加した。またYB-1、HER2発現群とそれぞれの非発現群を比較したところ発現群は非発現群に比べて有意に予後不良であった。今後はこの唾液導管癌を中心に唾液腺癌に注目してHER2遺伝子やEGFR、HER3、c-metなどの蛋白とどのような関連を示すのかその生物学的な特徴を明らかにしようと考えている。
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