頭頸部腫瘍に対する放射線治療後には、唾液腺の炎症、萎縮により、口腔乾燥症が起こり、患者のQOLを著しく低下させる。これを他覚的に評価する研究は乏しく、以下の臨床研究を行っている。 #研究目的;放射線治療後の口腔乾燥に対する他覚的に評価 #対象;東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・放射線科通院中・および入院中の頭頸部腫瘍と診断され放射線治療を施行予定および施行後の20歳以上の患者(特に大唾液腺が照射部位に含まれる咽喉頭癌症例) #方法;以下の検査項目を放射線治療前後の症例に対し施行する。 (1)アンケート(2)ガムテスト(3)安静時吐唾法(4)口腔水分計(MucusIII)による測定以下番号で表示 今年度は前年までの16例に加え、6例を新規追加計測した。前年度までは全例が従来法での放射線治療であったが、今年度は6例中3例は強度変調放射線治療(Intension Modulated Radiation Therapy以下IMRT)症例で、いずれも上咽頭癌であった。途中計測不可となった症例を除いて11症例について照射前と照射3ヶ月後を比較検討した。男性8人、女性3人、43~77歳で平均60.6歳であった。中咽頭癌4人、下咽頭癌4人、上咽頭癌(IMRT症例)3人、全例で総線量は70Gy、耳下腺平均線量は中咽頭癌:46.2±8.1Gy、下咽頭癌:44.1±2.6Gy、上咽頭癌(IMRT症例):41.5±1.5Gyと中咽頭癌で最も高値、上咽頭癌のIMRT症例で最も低値であった。結果は上・中・下咽頭癌すべてにおいて、(1)(2)(3)(4)全ての項目で照射3ヶ月後に自覚的にも他覚的にも唾液の分泌が低下していることが確認できた。測定値の差は中咽頭癌で最大、上咽頭癌で最小であった。従来法での比較であれば、上咽頭癌に対する照射で最も耳下腺の副反応が顕著に表れると予想されるが、今回上咽頭癌は全例IMRT症例で、耳下腺平均照射線量が最も低いため、このような結果になったと考えられる。また、照射前・直後・3ヶ月後で計測可能であった5症例(上咽頭癌1例、中咽頭癌2例、下咽頭癌2例)で照射直後と3ヶ月後を比較すると、(1)では差が無く、直後から強い乾燥感を自覚していることがわかるが、(2)(3)(4)では、いずれも直後より3ヶ月後の方が低下傾向にあり、他覚的にも唾液分泌がより低下し、乾燥度が増加していることがわかる。前年度までの報告の中では、照射直後で(2)(3)に比べ(4)による計測値が大きく低下していない理由として、照射直後で口腔内の炎症や浮腫が強く、唾液分泌が低下していても舌の粘膜表皮内の水分はあまり低下していないのではないかということと、また、照射により唾液分泌が低下しても少量あれば、舌の粘膜表皮内の水分はある程度保たれ、(4)での計測では軽度低下にとどまるのではないか等、考察した。今回、照射3ヶ月後の計測値が(4)でも著明に低下したことは、照射による口腔内の炎症や浮腫などの影響が減少し、唾液の分泌のさらなる低下も加わり、耳下腺自体に対する放射線の影響がより明確に表出してきたことを示していると考えられる。
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