我々は、網膜光障害における網膜の変性度の数値化法を確立させることができたので、これを利用して、網膜変性と体内時計との関連を検討した。この方法を用いることで、矢状面の眼球切片をヘマトキシリン-エオシンで染色した標本において、視細胞や網膜色素上皮細胞のアポトーシスによる変性が認められる領域を百分率で示すことができるようにした。まず、Wistar系ラットを24時間以上暗順応し、0時、6時、12時、18時より3時間、3000luxの白色光を照射し、4から7日後に病理組織切片を作製し、変性度を計測した。0時と6時からの光照射により、平均で約90%の網膜に変性が認められた一方、12時からは30.9%、18時からは49.2%の変性が認められた。Lewis系ラットでは、昼夜ともに、0-30%であり、耐性であったのに対して、WKY系ラットでは、昼夜の差がなく60-70%であり感受性を示した。このことから、同じ感受性を示すと考えていたWKY系統とWistar系統との間にも、体内時計が関与する網膜光障害発症機序において違いがあることが明らかとなった。そこで、光照射により視細胞や網膜色素上皮細胞において、時計遺伝子であるBmal1やCry2遺伝子の発現誘導が起こるかについて、免疫組織化学染色により検討した。光照射終了後9時間目において、錐体細胞の細胞体と思われる外顆粒層外側の細胞体を中心にWKY系統にてBMAL1陽性像が散見された一方、Lewis系統では数は少なかったが弱陽性細胞を確認できた。CRY2については発現誘導が認められなかった。このことから、網膜光障害における視細胞のアポトーシスにはBMAL1の発現誘導が関与する可能性が考えられた。また、我々が当初考えていたBMAL1-CLOCK-CRY2複合体形成によるアポトーシス抑制機構に関しては、この系には該当しないと現段階では考えている。
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