研究概要 |
前年度の研究成果により我々は高酸素濃度により角膜上皮細胞の細胞増殖が抑制されることを報告した。本年度は計画細胞死(programmed cell death)であるアポトーシスに対する環境酸素濃度の影響について,特に高酸素濃度による影響を検討することを目的として以下の研究を行った。研究背景にはアポトーシスは生体の恒常性維持や防御に重要で,Aktの活性化により抑制されることが知られている。 方法はSV40を導入したヒト角膜上皮細胞を5%CO2, 95%空気(21%O2に相当)で継代培養後,異なる酸素濃度(1, 21, 60%)のインキュベーターで培養した。培養上清中のLDH量で細胞死を検出し,Annexin Vに対する結合能をflow cytometerにより検出し,アポトーシスの程度を解析した。アポトーシス抑制シグナルは細胞溶解液をAktおよびリン酸化Aktに対する抗体を用いてWestern blotを行い検出した。 培養液中のLDH放出量は21%酸素および低酸素(1%酸素)での培養に比べ,高酸素(60%)の培養で有意に増加した。Annexin Vに対する結合能も21%酸素および低酸素(1%酸素)の培養に比べ,高酸素(60%)の培養で有意に増加していた。Aktのリン酸化は21%酸素および低酸素(1%酸素)の培養では検出されなかったが,高酸素(60%)の培養で検出された。以上の結果より,角膜上皮細胞は高濃度の酸素により細胞増殖が抑制されると共にアポトーシスによる細胞死が増加する。さらに抗アポトーシス抑制シグナルであるAktが活性化され,角膜上皮細胞の細胞死が制御されていることが示唆された。 さらに環境酸素濃度の変化が角膜上皮細胞,実質細胞へ与える影響を解析することにより,より深く角膜の生理機能およびCL装用による角膜構成細胞に対する影響について検討した。家兎角膜上皮におけるZO-1の局在に対するコンタクトレンズ装用の影響を観察すると低酸素透過性のCL装用により角膜上皮のZO-1発現が障害されるが,高酸素透過性のCL装用では影響されなかった。角膜上皮に対する十分な酸素供給は上皮バリアー機能を維持するために重要であることが示唆された。
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