研究概要 |
加齢黄斑変性症による脈絡膜新生血管の形成過程において、酸化ストレスによる病態進展という側面と免疫応答の根幹をなす補体制御系の異常による病態進展という側面が報告されている。生体には酸化ストレスに対する内在性抗酸化物質(グルタチオン、チオレドキシン、グルタレドキシン)が知られている。我々は従来の研究の流れより、チオレドキシン(TRX-1)に着目して検討を行った。TRX-1はヒトから大腸菌までよく保存された活性部位を有し, ペルオキシレドキシンとの協調作用により活性酸素種(ROS)を消去する抗酸化物質として働く。我々は改変体TRX-1カラムを用いた細胞外TRX-1結合タンパクを解析した.その結果ヒト血漿において補体の主要な制御因子であるcomplement factor H(CFH)を含む5つのタンパク質を同定した。そこで補体活性化に関して検討した結果, CFHによる補体活性化の抑制作用はTRX-1の添加により相加的に増強された。マウスでのレーザ誘発脈絡膜新生血管モデルを作成しTRX-1の効果を検討した所、TRX-1過剰発現遺伝子改変マウスにおいては野生型と比べCNV形成が阻害されており、TRX活性部位の2つシステインをセリンに改変した還元活性のないTRX改変体の腹腔内投与ではCNV形成が阻害されなかった。 (Inomata et.al. Suppression of Choroidal Neovascularization by Thioredoxin-1 via interaction with complement factor H.Invest Ophthalmol Vis Sci 49, 5118-5125, 2008.)以上の結果をふまえて、今後さらなる抗酸化物質の脈絡膜新生血管形成抑制効果を検討すると共に、そのメカニズムの解明を行う予定である。
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