周辺視野の光学特性は低次収差については既報があるが、高次収差を含めた光学特性は不明である。我々は周辺視野における点像強度分布(Point spread function;以下PSF)を直接測定する検査系を立ち上げ、正常眼・眼内レンズ眼での周辺視野光学特性データを取得した。取得したのは水平面鼻側20。から耳側40°まで10°ごとの解析径3mmPSF。 本研究での眼内レンズ眼における球面収差の影響を検証するため、まず解析径依存の球面収差が3mm径でほとんど影響ないことを証明した。これまで周辺視野は球面度数、円柱度数の測定は可能であったが、主流であるHartman-Shack波面収差測定機器でのHartman像の乱れが原因で高次収差を含めた光学特性の取得は困難とされてきた。本研究ではDouble-pass PSF像からSingle-pass PSFを算出する原理を用いて、眼内レンズ眼において世界で初めて周辺視野の光学特性を取得した(正常眼での周辺視野光学特性は2009年にArtal PらがJ Visionに報告)。本研究から正常眼の周辺視野の光学特性は低次収差、高次収差成分ともに眼内レンズ眼と比較して優れていた。我々が世界に先駆けて取得できた眼内レンズ眼の周辺視野の網膜像は、中心からの角度が増すにつれ急速に劣化した。これに対して、正常眼での周辺視野PSFは劣化が少なく中心視野に匹敵するものであった。これらの結果は(1)眼内レンズ挿入眼での周辺視野の光学的な欠点を示し、(2)水晶体を持つ眼の周辺視野の劣化の抑制メカニズムが存在することを示唆する。周辺視におけるblurは軸性近視の進行を促進することが動物実験で知られている。ヒトにおいても小児白内障での眼内レンズ挿入術後や未熟児網膜症での網膜凝固後に軸性近視の進行が知られており、今後この測定系を利用し小児白内障での新しい眼内レンズの開発につなげたい。
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