本研究ではTNF-α誘発視神経障害モデルを用い、軸索変性に関与する因子を、microtubulesを含む軸索側の因子と、マイクログリアやオリゴデンドロサイトなど周りのグリア側の因子とそれぞれ明らかにする目的がある。TNF-α硝子体注射後、視神経においてはNmnat1 mRNAが1日後とかなり早期に減少し、Nmnat1蛋白も1週間後には減少していた。このNmnat1は視神経においてはニューロフィラメントと共存していたことより軸索に関与する因子であることが分かった。網膜においては神経節細胞と共存しており、この細胞の生存や死に関与している可能性が考えられた。しかしながら網膜をサンプルにしたmRNAや蛋白の結果は、いずれもTNF-α硝子体注射後Nmnat1は有意な変化を認めなかった。このことは細胞体死と軸索変性の機序は異なると報告されていることに関係があるかもしれない。Nmnat1は酵素であり、その減少は下流の因子であるnicotinamide adenine dinucleotide(NAD)の減少につながることが予想されたため、HPLCでNAD量測定を視神経及び網膜をサンプルに試みている。このように軸索側の因子の一つが明らかになりつつある。一方グリア側の因子として、オリゴデンドロサイトに神経栄養因子であるBDNFが豊富に発現していることを確認した。BDNFの網膜神経節細胞に対する保護効果はすでに報告されているが、その軸索に対する効果はほとんど知られていなかった。我々はTNF-α硝子体注射後、早期には内因性のp-CREBとBDNFが一過性に増加し、それらの部位は軸索ではなくオリゴデンドロサイトであることを確認した。また、外因性のBDNFは軸索に対し保護効果を発揮したが、それには内因性のp-CREBとBDNFの関与があり、となりにある軸索に働きかけていることが示唆された。
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