目的:網膜Muller細胞における脂肪酸β-酸化に注目し、蛋白質・遺伝子発現レベルでの網羅的な組織化学的解析を行い、栄養代謝を中心としたMuller細胞の機能形態学的な性質を明らかにする。 平成21年度に得られた結果:昨年度は、ウエスタンブロット法・DNAマイクロアレイ法・光学顕微鏡レベルと電子顕微鏡レベルの免疫組織化学によりミトコンドリア脂肪酸β-酸化系の全酵素がMuller細胞に局在していることを確証した。今年度はさらに、ミトコンドリア脂肪酸β-酸化系酵素の活性を測定し、肝臓、網膜組織と網膜より単離したMuller細胞とで比較した。各段階の酵素に対する基質は、炭素鎖長が短鎖(C4)・中鎖(C8)・長鎖(C16)の脂肪酸を用いた。その結果、網膜組織においてミトコンドリア脂肪酸β-酸化系各段階の酵素の比活性は肝臓組織のおよそ10分の1程度存在することが判明した。単離したMuller細胞と網膜組織を比較すると、Muller細胞の比活性は網膜組織の2倍から5倍程度高くなっており、網膜においてミトコンドリア脂肪酸β-酸化系は主にMuller細胞に局在していることが確かめられた。 成果:本研究の結果は、Experimental Biology 2009(学会発表の1件目)および第41回日本臨床分子形態学会・学術集会(学会発表の2件目)で発表した。後者においては優秀演題賞を受賞した。論文は現在投稿中である(Histochemistry and Cell Biology)。 意義:網膜は他の組織と異なりブドウ糖のみが栄養源であるといわれる。その知見は未だ断片的であったが、脂肪酸が網膜の栄養源になりうることが確かめられ、神経組織における栄養代謝機構の一端が解明された。また脂肪酸β-酸化系酵素の一部の先天的欠損の児において網膜色素変性症が報告されている。本研究結果は網膜色素変性症の発症機構解明に役立つ。
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