(1) まずWT1遺伝子の抑制実験を行う前に、まず代表的な小児悪性腫瘍におけるWT1遺伝子の発現を検討した。Real time RT-PCR法によりWT1 mRNAを測定し、internal markerとしてβ-actinを用いて定量した。その結果WT1発現亢進例は神経芽腫で18例中7例に見られ、小児腎腫瘍では腎芽腫10例中8例、腎ラブドイド腫瘍3例中2例に高発現していた。横紋筋肉腫(6例)、肝芽腫(5例)、腎明細胞肉腫(3例)でも発現を検討したが、発現は見られるものの神経芽腫や腎芽腫にくらべる発現レベルは低かった。また、これらWT1遺伝子が高発現の腫瘍において免疫組織染色を行ったところ、検討した腫瘍ではいずれも陽性に染色され、WT1蛋白が確かに増加していることが確認された。これらの検討より、小児腫瘍では神経芽腫と腎腫瘍がWT1遺伝子抑制実験の対象となりうることが示唆された。 (2) 次に、WT1遺伝子発現の抑制実験を行うべく、小児腎腫瘍の細胞株樹立を試みた。しかし、腎芽腫の細胞株は樹立できず、市販されているものの入手も困難であった。神経芽腫の細胞株に関してはsiRNAを用いたWT1遺伝子の抑制を行い、腫瘍増殖に対する影響を検討したところ、予測に反して、遺伝子の抑制により腫瘍増殖の増加がみられた。免疫染色の結果でも、WT1遺伝子が分化した細胞にこう発現であるという結果が得られ、神経芽腫においてはWT1遺伝子は腫瘍増殖よりは、腫瘍の分化に関わっている可能性が示唆された。
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