われわれは、血行障害が原因となっている難治性皮膚潰瘍の新しい治療法として、血管新生作用があるとされる間葉系細胞をシート状にし、創部へ貼付する治療法の開発を目指した。また、臨床上の治療対象者は、高齢者がほとんどであり、高齢ラットと若年ラット由来の細胞培養シートでの治療効果の差を評価し、高齢ラットで本治療法が可能かを明らかにすることを目的とした。当初骨髄由来細胞培養シートの予定であったが、骨髄よりも採取が容易な皮下脂肪由来細胞を用いた。 若年ラット(8週齢)、高齢ラット(48週齢)の皮下脂肪を採取し、それぞれ間葉系細胞を分離・分化させた。フィブロネクチンディッシュで2週間培養後、温度応答性培養皿で1週間培養し、冷却することで細胞培養シートを獲得した。ラット(8週齢、オス)の背部両側に直径2cmの皮膚全層欠損を作成し、一方をコントロール、もう一方に細胞培養シートを貼付し、若年ラット由来細胞培養シート貼付群(Y群n=8)、高齢ラット由来細胞培養シート貼付群(A群n=11)にわけて評価した。潰瘍面積縮小率の平均は、7日目:コントロール側68.9%、Y群シート貼付側57.6%、A群シート貼付側68.4%、14日目:コントロール側28.6%、Y群シート貼付側16.2%、A群18.1%であった。レーザードップラー血流計を用い、潰瘍部血流評価を行ったところ、コントロール側に対し、シート貼付側は、14日目にY群で131%、A群で121%の血流増加を認めた。 高齢ラット由来細胞でも、培養シートは作成可能であった。若年、高齢由来細胞シートを貼付したいずれの場合も、創部の血流を改善させ、潰瘍縮小に寄与することがわかった。高齢ラット由来細胞は、若年ラット由来細胞よりも効果が遅く、治療効果が低下する。今後、高齢ラット由来細胞による治療効果の改善方法の検討を行い、実験を行う予定である。
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